電子機械工業全体の生産額の増加

家庭電子機器では、一九九六年にDVDが売り出されて、家庭電子機器市場がさらに膨れ上がるとも見えた。従来の光ディスクの凹凸がさらに微細に加工されて、情報の記憶容量はCDの約七倍になる。そのために音楽ホールでの演奏の臨場感を忠実に再現することも出来る。画像では従来のVHSの二倍以上の解像度があるために画像の鮮明さが増し、さらに特定の音声や音楽だけを大きくしたり小さくしたりすることも可能である。
 
しかしDVDは従来のCDやビデオと競合し、それらの市場を奪いはするが、従来の音楽や画像の市場を新しく飛躍的に拡大するほどのものではない。家庭電子機器の市場が拡大するとすれば、情報スーパーハイウェイの端末としてのパソコン、続いて携帯電話の情報端末の普及が、それに最も貢献するのではないか。
 
この年には、電子機械工業全体の生産額が二四兆円をこえて、自動車および輸送機械工業のそれを約一兆円上回った。この前の年、一九九五年には携帯電話などの移動通信の設備投資額が一兆円をこえ、同年の鉄鋼業のそれを抜いた。一九六〇年代までは、鉄鋼業は日本の高度経済成長の推進軸で、「鉄は国家なり」とさえ言われたものだ。経団連の会長も鉄鋼業界から出るのが当然のように思われていた。しかし今は、その鉄鋼業が携帯電話の風下に立つと見えるほど、時代は変わった。
 
一九九七年に、郵政省の電気通信審議会は、情報通信二一世紀ビジョンを答申したが、それによると、二〇一〇年までの市場規模は、二一四兆円に達すると言う。その内容は、通信サービス、放送サービス、テレビ・ラジオ・パソコン・携帯電話などの端末機器、テレビやラジオなどの番組、ビデオ・CD用の映画その他のソフト、インターネットを介しての情報処理や商品の売上額等々である。アメリカでは、ゴアの情報スーパーハイウェイの構想に見るように、すでにこのような情報通信産業が経済発展の主軸になっており、そのすべてをコンピュータのネ。トワークが結合しつつあるが、日本もまたその後を追うことは確かである。