会社に逆らえず、引きこもってしまう活力なき若者

その結果、「生活保護よりも低い」とさえ言われる給料しかもらえないドライバーも出現する可能性が出ている。つまり、タクシー業界には人手不足になるだけの理由はあるということである。タクシー運転手の最低賃金を上げるなり、タクシー会社や経営者の収益構造を変えない限り、人手不足は解消しない。このような業界事情を考えると、「派遣を切られたら、文句を言わずにタクシー運転手になればいいだろう」というのは乱暴な理屈であることもわかる。確かに、生活保護に依存せず自助努力をすることは重要である。

しかし、人手不足の業界の体質を改善しないままに、国家総動員的に人材を右から左へと強制的に動かすだけでは、すべてのしわ寄せを労働者に押し付けているにすぎない。人手不足になる要因には政府の失敗も絡んでいる。例えば、医師・介護など役所が需給コントロールしているような業界がそうだ。医師不足が叫ばれて久しいが、未だに医師の絶対数が不足しているのか、医師が偏在していてミスマッチが生じているだけなのか、その理由がよくわからない。仮に医師の絶対数が不足しているのであれば、大学医学部の定員を大幅に増加すれば、将来的に医師不足が解消されるはずだが、厚労省が抜本的な解決策を提示しているとは思えない。

類似した話としては、博士号を取得したにもかかわらず、大学教員になれないなど「高学歴ワーキングプア」として問題となった大学業界もそうである。大学院博士課程を設置している大学院数、「博士号を出す」という文科省及び大学業界全体の方針、博士号を取得する人数、大学教員のポスト数、定年が遅いためポストが空かないという業界事情などを考えれば、大学教員の雇用のミスマッチが起こるのは極めて当然である。

最後は、求められる能力を満たす人が少ないという業界だ。特殊な技術・技能を求められるような世界のことで、一部の高度なIT技術者はそうである。この場合、人手不足になっている要因をどこに求めるのかは難しい。高度な技術を身につけようと努力しない若者などが悪いのか、求められる専門能力を供給できる教育機関・訓練機関が存在しないことが問題なのか、求められる能力・技術を具体的に提示しない会社の問題なのかなど、はっきりしないことが多い。

人口減少・高失業率社会の原因は企業だけではない。労働者にも問題はある。確かに、働き過ぎでうつ病になる正社員は多いが、その一方で、給料に見合う働きをしていないにもかかわらず、手厚い終身雇用で守られている中高年正社員は非常に多い。大企業の中高年正社員のホワイトカラーはものすごい給料を得ているだけでなく、まず解雇されることもない。そんな特権の裏返しとして、企業は採用抑制によって人件費を抑制せざるを得ないため、前途ある若者が犠牲になっている。