国民協議会本会議の席上

一方、ゴルカル側では別の動きが進行していた。夕刻のゴルカル議員団会議では、ウゴフント擁立を図るハビビ派議員の牽制を押し切る形で、アクバル副大統領擁立が決定された。その後、アクバルはギナンジャルとともに大統領官邸を訪れ、アクバル副大統領を望むというグスードゥルの意思を確認したと言われる。もし事実ならば、グスードゥルは二枚舌を操ったことになる。

副大統領立候補受け付け締切時間の夜一〇時半までに、国会事務局には、アクバル、ハムザーハズ、ウゴフントの三人の書類が提出された。アクバルはゴルカル議員団(形式上は全議員一八二人の総意)、ハムザーハズは開発統一党議員団、ウィラントはイスラム信徒連合会派九議員とゴルカルのハビビ派議員七四人の連署によるものであった。メガワティの立候補書類はまだ届いていなかったが、民族覚醒党議員団から電話で書類提出準備中の連絡が入りアミン議長の了承のもとにこれが受理された。

民族覚醒党幹部の必死の説得により、二一日午前○時半にメガワティがようやく立候補書類に署名した。しかし、各種書類がすべて整い国会事務局に提出されたのは、夜が明けてからであったと言われる。二一日午前七時半、ゴルカル内の結束の乱れを理由に、副大統領候補を辞退するむねの連絡がアクバルからグスードゥルに入った。他方グスードゥルは、腹心の民族覚醒党幹部に命じて、ウゴフント邸を訪れ立候補辞退の説得に当たらせた。また、ムリアーホテル宿泊中の改革会派議員にもグスードゥルや民族覚醒党幹部から電話が入り、メガワティ副大統領実現に協力するよう要請が行われたという。午前一〇時にはウゴフント側からメガワティ側に接触があり、自身の立候補辞退と国軍・警察会派のメガワティ支持が確約されたという情報もある。

同じ午前一〇時、国民協議会本会議の席上、アミン議長が副大統領選投票の前に各会派協議のため一時休会を宣言した。議事堂の内外で各種のロビ上工作が続けられたあと、正午すぎ本会議が再開された。ゴルカルのアクバル党首が発言を求めて起立し、立候補辞退の意思を表明した。苦渋の表情のアクバルの背中を、隣の席のマルズキ議員団長がやはり起立して手を添え支えていた。

次いで、やはり立候補辞退を表明したウゴフントの宣誓書をアミン議長が代読し、ふたたび休会が宣言された。副大統領選出を協議による全会一致(ムシャワラ)によるのか票決によるのかをめぐり、各会派間の調整を行うためである。午後にふたたび議事が再開されると、冒頭ハムザーハズ党首みずからが、開発統一党は同党首の立候補を撤回しないむねアミン議長に通告した。かくして、メガワティの希望に反して、副大統領選の投票が二候補の間で行われることになった。結果は、三九六票を集めたメガワティが二八四票のハムザーハズに圧勝した(他に棄権が五票)。