マハティール/ソロス論争がここまで外交問題に発展した背景

そこで、アメリカのアイゼンシュタット国務次官(経済担当)は東南アジア歴訪の途上、「投機筋のみを糾弾するのは事実と反する」とした上で、「アジア諸国にとって引き続き市場を開放していくことが、長期的発展への最も賢明な方法である」と、間接的なソロス氏支持を繰り返すことになった。

このマハティール−ソロス論争がここまで外交問題に発展した背景には、一九九七年七月のASEAN外相会議で、ミャンマーラオスが正式加盟したことも一因と見なされている。ソロス氏も彼が主宰する「アジア・ウォッチ」という人権擁護団体も、「ミャンマーでは軍事政権によって民主主義が弾圧されている」との理由で同国のASEAN加盟には反対を続けてきた。これは、アメリ国務省の立場と同じものである。

そのため、ASEAN側では、ソロス氏とアメリカ政府が一体となり、アジア的価値観に挑戦をしてきていると受け止めてしまった面がある。要は、ASEANに対する腹いせもあって、ソロス氏は他のヘッジファンドと語らってアジア通貨への攻撃を仕掛けた、とマハティール首相が信じているのも、そのような背景があってのことであろう。

この論争は、ソロス氏が香港の『サウス・チャイナ・モーニング・ポスト』紙(一九九七年八月二十四日)紙上で、「アジア通貨に対する投機の動きは行き過ぎであった。不正な売買や通貨不安は間もなく終息するであろう」と述べたことで、一応鎮静化をみた。しかし、その頃、ソロス氏らは間もなく始まる香港や韓国に対する新たな通貨投機の準備を進めていたのである。

ところで、ソロス氏自身の発言を見る限り、彼はいつも自信満々に見える。ソロス氏は常々「勝てない博打はやらない」と公言しているが、各地で数十億ドルの損失を出したことがあったにせよ、おおむね勝ち続けているらしいことはその後の発言からも想像がつく。では、ソロス氏(及び主要ヘッジファンド)が、勝ち続ける秘密とは一体何なのか。