ヘッジファンドだけでアジアの小国といえども通貨攻撃などできるはずはない。

ヨーロッパを手始めに、タイやマレーシア、韓国や日本といった国家を相手に次々と通貨投機を仕掛ける以上は、最高の機密情報へのアクセスが必要であろう。ソロス氏がそうした実力の持ち主であることは、マレーシアの例に見る通りだが、先に紹介した「ヘッジファンド三人衆」など限られた例外を除けば、五千を越すともいわれるヘッジファンドの主宰者で、アジアの通貨投機を仕掛けようなどと考える投機家は誰もいない。

ソロス氏自身が認めているように、彼のファンドは一七〇億ドル程度で、とても通常の手段では、たとえアジアの小国といえども通貨攻撃などできるはずはない。それができたということは、ソロス氏を中心としたヘッジファンドに大量の資金を預け、運用を委ねる大手の銀行があったからである。もちろん、投資する銀行も確実な見返りを期待するからこそ乗ってきたのであるが。

後に詳しく記すが、一九九二年以降、イングランド銀行ドイツ連邦銀行、フランス銀行な、どヨーロッパの中央銀行は、ソロス氏らのヘッジファンドに出資し、違法とも思える連係プレーを重ねている。スイスのダボス経済会議に出席した地元の金融専門家によれば、「これらの中央銀行からソロス氏らオフショアーヘッジファンドのもとに、海外マーケットに関する極秘の戦略情報が慎重に流されている」という驚くべき話もある。

その中には、アジア各国の経済、金融情報のみならず、政治家に関するスキャンダル情報なども含まれているという、ヨーロッパや中東諸国などの国際諜報機関からの情報もあり、日本についても、大蔵省や民間の金融機関にいる情報提供者から事前に入ってきているという。このようにして得た極秘情報を思うように加工し、操作することで、ヘッジファンドはヨーロッパやアジアの通貨危機で実に巧みに儲けることができた、というのである。

どこまで本当の話かは分らないが、仮にこれが投機家の開に流れやすい単なるウワサに過ぎないとしても、ソロス氏らヘッジファンド集団にとって悪い話ではない。ソロス氏らを(本当の実力以上に?)大きく見せるからだ。