わが国では「情報とはあくまでサービス」といった考えが根強い

話は外れるが、このような市場操作や世論誘導というソフト戦略の可能性について、日本では余りにも関心が低いと思われる「わが国ではソロス氏の盟友」とのウワサがたえない、大蔵省の榊原英資財務官がときたま見せる、市場への「口先介入」が目立つ程度で、ウワサを戦略的に使うというような発想は全くない。

それどころか、日本では榊原氏の意図を曲解し、「ソロス氏と語らって市場を円高方向に誘導し、同氏を大儲けさせた」との報道までなされた。確かに、一九九六年五月上旬、円ドル相場が一ドル=二一四円台で推移していた頃、榊原氏(当時、大蔵省国際金融局長)は国会答弁で一〇三円までの円高もありうるとの趣旨の発言をした。しかし、それは市場の動向を見ていれば誰にも明らかな流れであった。

そもそも、榊原氏の発言だけで相場が動くと考えるのは、いかにも安易である。市場にはさまざまな見えないプレーヤーがあり、彼らの存在に気付かねば、本当の動きは分らない。そのような動きを探る努力もせず、短絡的に榊原氏とソロス氏との「癒着」を。訂いつのるのは、酷だと思うがどうか。

わが国では「情報とはあくまでサービス」といった考えが根強いため、「どこからか降ってくるか、もらってくるもの」と思っている人々が多いようだ。その上、情報そのものに本来は発信者の意図が組み込まれているのが当たり前で、「中立で客観的な情報など実はこの世には存在しない」という認識が、日本には欠けているのである。

ヘッジファンドの威力やデリバティブ取引の危険性についても、自らその実態を解明する努力をせず、IMFや業界団体がまとめたレポートを鵜呑みにし「たいしたことはなさそうだ」と簡単に信じてしまうのが、日本のマスコミや金融機関に共通した体質である。そんなことでは、ソロス氏ら国際的な投機のプロが内外のマスコミを巧みに誘導して、相場の流れを操ろうとするテクニックに、翻弄されるばかりであろう。

話を戻す。ソロス氏やへッジファンドの盟友たちの強みは、このような情報戦略に長けていることだけではない。その最大の強みは、ヨーロッパの大手銀行から大量の資金をファンド契約を通じて調達し、動かすことができる点てある。人気スター的存在であるソロス、ロバートソン、ベーコン氏らが主宰するへッジファンドにはクレディ・リョネ、INGベアリングズ、クレディーアグリコール・インドスエズ・W・J・カー、コメルツ銀行などヨーロッパ系の大手金融機関らの資金が大量に流れこんでいるといわれる。しかもそれは簿外資金であり、情報公開の義務がないために実態はベールに包まれたまま、だからこそ大手金融機関も安心して投資しているのである。