安定志向の強い伝統的銀行では、果敢な投資判断ができない。

安定志向の強い伝統的銀行では、不安定な状況における果敢な投資判断ができない。大きな利益を得るためにはリスクも伴う。そのリスクをヘッジするには、先を見通す力が必要となるが、彼らにはそれがない。そこで、先を読む力、リスクへッジを売り物にするヘッジファンドが生まれたのである。

とはいえ、ヘッジファンドといっても、ピンからキリまである。先に、ヘッジファンドの数は五千とも言われると紹介したが、そのわけは誰でも作れるからである。銀行や証券会社と違って規則も規制もない。というのも、ヘッジファンドはプロの投資家のみから資金を集めることになっており、一般の金融商品と違って消費者保護の観点が問題にされないのである。

当局への登録や情報開示の必要もなければ、厳しい運用規制があるわけでもない。不特定多数に公募されるファンドではなく、相手はあくまで自己責任で投資できる判断力と財力を允分持つ衿に限られている。仮に破綻しても、「投資家の判断ミス」で片づけられてしまう世界なのである。そのため、不祥事を起こして証券取引の世界から追放されたようなトレーダーが口コミの紹介で投資家に接触するケースも多い。

しかも、契約投資金は前払いで、成功報酬が前提となっているため、本人は手元に資金がなくとも大きな投資ができるのである。通常の成功報酬は収益の二〇パーセントと高い。破綻したLTCMの場合は、高収益で人気も抜群であったため、成功報酬も二五パーセントであったという。

このヘッジファンドと投資契約を結んだ顧客の中には、ウォールストリートの金融会社のトップや連邦銀行の幹部も多数含まれており、そのことが大掛かりな救済計画につながったとウワサされるほどであった。

上手くいけば、投資家もヘッジファンドの主宰者もこれほどハッピーなことはない。投資額が短期間に三〇パーセントとか五〇〇パーセントも増えるのだから、笑いが止まらない。その上、もし、投資が失敗しても、ヘッジファンド側にはその損失を補償する義務はないのである。当然、投資する側はヘッジファンドの過去の実績に注目する。

もともと、一九四九年、社会学者でジャーナリストであったアルフレッド・ジョーツズ氏が始めた「ジョーンズ・ヘッジファンド」が、投機的資金運用であるヘッジファンドの第一号であった。五十年前のこと、その運用方法は割高株をショート(売り待ち)し、割安株をロック(買い待ち)するだけのこと。ただ、その巧みな組合せで、市場全体がどのように揺れても、必ずハイリターンが得られるというのが宣伝文句であった。