株を買う時には予測が働く

ソロス氏は大学を卒業すると、ロンドンの銀行で数年働いてから、一九五六年にはニューヨークのウォール街に移り、経験を積む。ヨーロとハ市場に関する知識と、自らが考案した「反射理論」(人間の経済、投資活動は合理的とは言いがたく、常に期待値が入り込む分、群衆心理に近づく。その心理のひだを突いた投資手法)を駆使して、資金運用の実績を上げる。

その後の本人の説明によれば、「金融市場には、予測と結果の間に相互作用がある。株を買う時には予測が働く。ところが、その予測自体が株価を左右する。さらに言えば、人間の行動はすべて取り組む人の考えによって変わる。この人間に内在するフィードバック・メカニズムによって、現実がどんどん変えられていく。この作用のことをレフレクシビリティー(反射作用)と呼んでいる」(「シモン・ペレスジョージ・ソロスと語る」『読売新聞』一九九八年五月五日とのこと。


要は、お金を儲けたいという欲望にもとづいて投資する人々がいる限り、株価は上下する。そうすれば、「安く買って、高く売り、儲ける」機会が増える。そのチャンスを増やすためには、人々の欲望を高めたり低めたりする必要がある。

その手法を多少哲学者風にまとめたものが「反射理論」という次第で、ソロス氏の御自慢である。この自信作を振りかざし、一九六九年には、後に「クォンタム・ファンド」に統合されることになる「ダブルイーグル・ファンド」と称するファンドを設立するに到った。

そして大口の投資家から資金を預かり、デリバティブをもとに運用するへッジファンドで荒稼ぎをする。その手法は本人によれば、政府や他の金融筋の裏を読んで、いわば「逆張り」で大儲けをした、というのである。ソロス氏が係わったファンドの一九六九年から八〇年の十一年間の値上がり率は、S&P五百種指数が四七パーセントであったのに対し、なんと三三六五パーセントというすさまじいものであった。