大ざっぱな推計の根拠

選挙戦が展開されている五月下旬に私は、休日の暇つぶしを兼ね面白半分で、主要政党の州別得票率予測表なるものを作り、知人のジャーナリストたちに配るという「遊び」を始めた。インドネシア研究が専門といっても私は政治学者ではないし、選挙予測の手法について特別な知識や経験があるわけでもない。あくまで「遊び」なのだが、だからといって全くの当てずっぽうを並べたわけでもない。大ざっぱな推計の根拠となる仮説とデータはあった。

予測作業の出発点となるデータは三組あった。ひとつは、九七年選挙の際の三政党の得票率である(表)。このときの国会議員選挙での全国平均得票率は、与党のゴルカルが七四・三%、イスラム系野党の開発統一党(PPP)が二二・六%、民族主義系野党のインドネシア民主党(PDI、以下たんに民主党と記す)が三・一%であった。四八もの政党が参加する今度の選挙では、従来、既成三政党に投じられていた票の多くが他の政党へとシフトするはずである。どの新党へどれだけの票が移動するかの読みが、予測の鍵になるのだ。

といっても、四八もの政党のすべてについて予測を行うのは不可能だ。そこで対象を、有力政党の呼び声の高かった闘争民主党(PDIIP、メガワティ党首)、国民信託党(PAN、アミンーライス党首)、民族覚醒党(PKB、マトリーアブドゥルージャリル党首)の三新党と、ゴルカルテクバルータンジュン党首)、開発統一党(ハムザーハズ党首)の既成二党、計五政党に限り、残りは「その他」として一括することにした。既成の民主党を「その他」に括ったのは、「真打ち」メガワティ党首が率いる闘争民主党の登場により、同党が零細政党に転落するのは必至だったからだ。

二つめの参考データは、九七年よりもひとつ前の九二年選挙の結果であった。このときの全国平均得票率は、ゴルカルが六八・一%、開発統一党が一七・〇%、民主党が一四・九%たった。この選挙に先立つ党大会でメガワティを党首に立てた民主党はヽ彼女の人気のおかげでヽ八七年総選挙の一〇・九%から得票率を大きく伸ばしたのである。

逆に九七年選挙で同党が惨敗したのは、メガワティを公認指導部から放逐したからであった。このときに起きた「メガービンタン現象」により、本来民主党支持の票のかなりが開発統一党の方に流れたことについては、先ですでに説明した。九二年と九七年の開発統一党得票率の差五・六%をもたらしたのは「メガ支持票」と見られるので、それに相当する部分が、今回は闘争民主党に流れると私は読んだ。