金鉱山の発見と株価

マルコポーロは『東方見聞録』の中で日本を「黄金の国ジパング」と呼びました。真偽のほどは分かりませんが、中尊寺金色堂に関する伝聞を耳にしてこう呼んだともいわれています。有史以来、人類が世界中でこれまでに掘り出した「金」の総量(地上在庫)は約一四万トン、オリンピックプール三杯分にしかなりません。この貴重な金を産出する世界有数の鉱山が、実は日本にあります。住友金属鉱山菱刈鉱山です。

菱刈の推定埋蔵金量は二六〇トン。特筆すべきは金鉱石から採れる金の量がトン当たり六○グラムとケタはずれに高品位なことです。おそらく世界第一位と言われています。今から二〇年近く前、私は興銀の審査部に勤めていました。鉱山開発のプロジェクトの審査を担当していて、日本の主な鉱山のほとんどすべてに入坑いたしました。鉱山開発の審査では、その鉱山の鉱石の埋蔵量、出てくる鉱石の品位(鉱物がどのくらい含まれているか)、採掘コストなどをベースに、その鉱山が今後どれくらいのキャッシューフローをもたらすかを計算します。

一九八一年、世界でも有数の金鉱山である菱刈鉱山が発見され、翌一九八二年には金量で埋蔵量一二〇トンという探鉱結果も発表されました。当時私は興味があったので、このニュースによって住友金属鉱山の株価がどのくらい上がったのかを調べてみました。興銀の審査部では当時から、担当している業種の会社の株式を購入することは一切禁じられていました。銀行の審査部というのは、ある種の内部情報を取引先から得ることもありますので、当然のことです。私は審査部に五年も配属されていましたので、鉱山の採掘コストがどのくらいか、金の製錬に要する費用はいくらくらいか、おおよその見当がつきました。

別な言い方をしますと、菱刈の発見によって住友金属鉱山にどのくらいのキャッシューフローが毎年もたらせるかを、自分なりに計算することができたのです。そして、そこから逆算して、このキャッシューフローの増分がどのくらいの株価上昇に値するかを計算していったのです。すると、自分で計算して出した株価上昇の推定値と、実際のマーケットでの株価上昇額は、ほとんど同じ数字になりました。

日本の株式市場は意外と完全市場に近い形で機能しているのだとの感想を持ったのを今でもよく覚えています。価値が不当に低く評価されている会社の株を買うすでにお話ししましたとおり、投資して「儲かる株」とは、一つには、今後価値が高くなっていく会社の株です。ここでいう会社の価値とは、企業が将来にわたって生み出していくキャッシューフローのことです。