大きな内外価格差

日本の円の為替レートがアメリカのドルにくらべて二〇年そこそこのうちに三倍以上にもなったという事は本来大変喜ばしく歓迎すべき事である。なぜなら、それは日本の産業の競争力がそれだけ強化されたという事であり、また円の為替レートが高いという事はそれだけ同じ円で世界の市場ではより多くの物が買えるという事だから日本が豊かになるという事であり、また国力が高まったという事であるからだ。

ところが、ここに大きな問題がある。日本の円はこのように外には強いが内にはひどく弱いのである。つまり為替レートが高いから海外では円の購買力が高いが、国内ではそうではないのである。同じ円を使っても海外でドルに交換してそれを使うと多くの物が買えるが国内ではそれほど買えないのである。なぜそんな事になるかというと国内の物価が海外より大変高いからである。これがいわゆる内外価格差といわれる問題である。

通貨の相対的価値をあらわすには為替レートとならんで、購買力平価という尺度がある。いうなれば通貨にはふたつの値段があるわけだ。購買力平価というのは、円か日本国内でどれだけの物を買えるか、すなわち円の購買力と、ドルのアメリカでの購買力を比べたものである。いいかえれば通貨の実質的な購買力の指標である。

日本の円のドルと対比した購買力平価は一九九三年時点で一八〇円から二〇〇円ぐらいのレンジにある。この指標は消費者物価を基準にするか総合物価を基準にするかなどで多少異ってくる。いずれにしても円の実質的な購買力を示す価値と、為替レートとの間には極端な格差があるのである。

円高が問題だというのは実はこの点にある。円の為替レートが購買力平価にくらべて著しく高いという事である。いいかえれば為替レートという円の名目的な値段が購買力平価にあらわされる実力にくらべてはるかに高いというこの点に「円高」の問題があるのである。