文化の享受能力を高めるために

二つのCIであれ、クリエーターの経済生活の保障や機会の提供であれ、これらは文化の供給者であって、文化の究極にして最終の享受者は消費者です。これこそもう一つのCであって「文化の享受能力を高めるために社会の資源を配分する」ことは文化経済学の最も重要な課題のひとつです。消費者が文化の享受能力をどれだけ高めることができるかは文化の時代を実現できるか否かの最後の鍵を握っています。

もし消費者が文化的な装いを懲らした宣伝や流行やファッションに踊らされて真の文化とは何かを理解しないならば、クリエーターがより高い芸術文化を創造し公表する機会は著しく制限されるだけでなくて、悪徳なビジネスや文化を利用して世論を操作しようとする人々を利するだけになってしまうでしょう。そこで公教育制度や生涯教育制度のなかに文化の享受能力の発達を位置づけ、自発的な観賞団体の発展を自治体や公共部門が支援し、社会が消費者の文化享受能力の形成と発達のために資源を配分することが求められます。この領域においても文化経済学は大きな役割を期待されているといってよいでしょう。

消費者の享受能力が高まると文化の評価や創造にも大きな刺激を与えるだけでなく、二つのCIの質をも高めて企業と地域社会に活力をもたらし、産業や地域の発展に画期的な影響を与えるに違いありません。文化経済学はある空間において文化の享受能力のある住民を育てクリエーターの創造活動の経済的基盤に配慮し、コーポレイトーアイデンティティによる製品やサービスの質を高めさせ、さらにシティーアイデンティティによって住民、クリエーター、企業の協力のもとに文化的な地域づくりを実行するための経済的財政的な基礎を研究してきました。昔は文化と経済は全く縁の遠いものと考えられてきましたが、今では極めて密接な関係をもつものとなっています。では文化経済学で何が議論されているのかということから説明します。

一九九〇年六月一一日から一三日にかけてスウエーデンのウメア市で、世界各国から約一三〇人の大学関係者や文化事業の専門家が参加して、第六回の文化経済学会国際会議が開催されました。ウメア市はストックホルムのアーランダ空港から国内線で約一時間、東海岸に位置し、美しい川と湖に囲まれた小さな学園都市です。町並みは驚くほどの洗練された整備ぶりで、都心は劇場、国際会議場、図書館が市役所などの旧い建築物とよく調和し、大きな川の中ほどに噴水をもうけ、川に沿った白樺の並木を縫うようにして、黄色をはじめ澄んだ色彩の花々が咲き乱れています。都心と郊外の湖水とをつなぐ快適なサイクリングーロードが縦横にはしり、木製のどっしりとしたベンチを適度に配置して落着いた雰囲気をかもしだす「散歩のための小道」が川や畑を縫うようにしてはしっているのが印象的でした。